私が好きな宿には共通点がある。
スタッフの数が多いわけでもなく、価格が高いわけでもない。
それでも、心が満たされる宿だ。
それは「居心地が良い」と言い換えることもできる。
現在、観光業は人手不足。
人の手をかけたおもてなしが難しくなっている。
だけど今、
人手をかけなくても、居心地の良さをつくる宿が
国内外で少しずつ増えている。
この記事では、筆者が実際に居心地の良さを感じた
・Star Hostel Taipei East(台湾・台北)
・SARUYA HOSTEL(日本・富士吉田)
を例に、
その共通点を紐解いてみたいと思う。


■設計された居心地の共通点
無言のおもてなし
Star Hostel Taipei Eastには、受付横に靴を脱いで上がる小上がりのスペースがある。

広々とした空間に、大きな机。 PC作業もできる。
あちらこちらにクッションが置かれ、 「ゆっくり休んでね」と言われているようだ。
台湾や旅の魅力を伝えるガイドブックや写真集も、 「気軽に読んでね」という感じでさりげなく置かれている。

一方、SARUYA HOSTELにもラウンジやキッチンなどの共有スペースがある。

ラウンジに入った瞬間、私は 「居心地がいいな」 と感じた。
その理由を考えてみると、 それは開放感だった。
1階と2階の間の天井を取り払い、木の梁だけを残している。


そのため自然光がふんだんに入り、空間がとても気持ちいい。
この2つの宿はタイプこそ違うが、共通していることがある。
それは 宿泊者がくつろげるにはどうすればよいかを真剣に考えて、空間がデザインされていること。
そしてその姿勢がゆきとどいていること。
そしてその空間は、まるで 「無言のおもてなし」 のように感じられるのだ。
完璧でない美しさ と自然光
両方の宿とも、時期にもよるが1万円以下で宿泊できることも多く、価格は控えめ。
そのため、ラグジュアリーホテルのような完璧に整った空間を期待しているわけではない。
だからこそ、そこにある 控えめなりの美しさの美学 に気づくと、私はとても感動する。
SARUYA HOSTELもStar Hostel Taipei Eastも、 新しい建物ではなく、既存の建物をリノベーションして生まれた宿だ。


梁や素材がそのまま見えている部分もあり、 少しラフで、完璧に整いすぎていない。
でもその「整いすぎていない感じ」が、 不思議と人をリラックスさせる。
どこか余白があり、 少しだけ未完成のような空間。
そのため、宿泊者も 気を使いすぎずに過ごすことができる。
また印象的なのは、 自然光の使い方だ。
両方の宿とも、窓やドアから光が出来るだけふんだんに入るように設計されている。

その柔らかな光が空間に広がることで、 開放感と安心感が生まれ、 それが居心地の良さにつながっているようにも感じる。

完璧に整えられた空間よりも、
少しラフで余白のある空間のほうが、
人は自然体でいられるのかもしれないな。
そしてそこに、やわらかな自然光が差し込むことで、
空間は「場所」から「居場所」へと変わる。
徹底した清潔さ
価格が控えめな宿に泊まるとき、 宿泊者のどこかにはこんな気持ちがあると思う。
「多少のことは仕方がない。」 例えば 、建物の古さ 設備のシンプルさ など。
リノベーションされた建物であれば、 どこかに少し古さが残っていても不思議ではない。
しかし、この二つの宿には共通していることがある。 掃除がとても行き届いていることだ。
建物は決して新しいわけではない。
それでも古さを感じさせないのは、 日々の清掃が丁寧に行われているからだろう。
空間のデザインはラフで、作り込みすぎない。
でも快適さを支える一番基本の部分、 清潔さだけは決して妥協しない。
その姿勢から、 「宿泊者に気持ちよく過ごしてほしい」 という思いが伝わってくる。
派手なサービスではない。
でも、こうした小さな積み重ねこそが、
居心地の良さの“土台”になっている。
見えない部分にこそ、
宿の本当の姿勢があらわれるのだと思う。
もの選びの視点
SARUYA HOSTELで特に印象的だったのが、 もの選びの目線の美しさだ。
寝室にはベッドが二つ置かれている。 それ以外にくつろぐスペースはない。
一見すると、とてもシンプルな部屋だ。
でも「寝室=寝るための部屋」と考えると、 それで十分だと感じる。
その満足感を支えているのが、 そこで使われている「もの」だ。
ベッドのリネンには、富士吉田市内で三代続く織物メーカー テンジンファクトリーの麻のリネンが使われている。

効率を重視するホテルでは、 ケアの手間がかかる麻のリネンを採用することはあまりない。
それでもSARUYA HOSTELではそれを選んでいる。
地元のものを大切にするという姿勢と、 通気性の良い麻の心地よさ。
その二つが、眠りの時間を豊かにしてくれる。
さらにインバスには、河口湖近くに工場を構える 松山油脂のLeaf & Botanicsが採用されている。
眠る時間やバスタイムの中にも、 この土地とのつながりがそっと織り込まれている。
一方、Star Hostel Taipei Eastの客室にも 同じような「もの選びの視点」を感じた。
ベッドのほかに置かれているのは、 木製のシンプルな長いテーブルと、 ゆったり座れる椅子。
一般的なホテルよりも、 テーブルも椅子も少し大きい。

そのサイズの余裕が、 空間に自然な余白を生み出している。
作業をしてもいいし、 コーヒーを飲みながらぼんやりしてもいい。
使い方を決めつけない家具が、 宿泊者に自由な時間の使い方を委ねている。
豪華な家具ではない。
でもそこには、
「どんな時間を過ごしてほしいのか」という
宿の思想が静かに宿っている。
そしてその思想が、
宿泊者の時間をやさしく導いてくれる。
余白がある
宿が過ごし方を決めていない。
でも、心地よく過ごせる環境は用意されている。
広い共有スペース。
本や漫画。
ゆったりと使える机。
何かを強制されることはない。
だけど、何をしてもいい安心感がある。
その「余白」があることで、
人は、あるがままの自分に戻ることができる。
それは、単なる「居心地の良さ」以上のものかもしれない。
宿で過ごす時間そのものを、少し豊かにしてくれる力だと思う。